私の研究分野は心理学,とりわけフェミニズム/フェミニスト心理学ないしジェンダー心理学である。他の諸学問における下位分野と同様,心理学の諸分野も一般に○○心理学という名称をとる。そしてそれは,○○という領域を心理学の方法論で学究するということを示す。すなわち,私はフェミニズムやジェンダーを心理学する(心理学的に学究する)分野において研究活動をしている。まず,この研究分野の社会的存在意義に関して述べる。それは端的には,学際性とりわけ文理融合性であると思われる。心理学とは概ね,心という哲学的・形而上学的な対象をなるべく科学的にエビデンスベースで(たとえば統計を使って)検討するディシプリンである。このような性質を有する心理学の視座で以てフェミニズムやジェンダー・スタディーズを行う意義として,「思惟の隘路の突破口となりうる」ということが挙げられよう。すなわち,言葉のみを重ねて論じたり論駁したりすることで生じる「ああでもないこうでもない」を分析結果の提示によって帰結させることができうるということである。この点で,フェミニズム/フェミニスト心理学・ジェンダー心理学は存在意義を有している。どういうことか。以下,私自身の研究テーマを引き寄せて,その意義を詳述する。
私は,性的客体化(Sexual Objectification)によって生じる心理的悪影響を研究している。性的客体化とは端的には,「人のことを単なる性的な対象・モノ(すなわち性的機能や性的部位)としてとらえること」を指し,現代の社会において多くは女性に対して/女性において生じている(性的対象化や性的モノ化などとも邦訳される)。この性的客体化は哲学や社会学の分野で俎上に載せられてきたフェミニズムの概念である。すなわち,大まかにいえば,「論じる」という方法論がおもに取られてきた。すると,性的客体化に警鐘を鳴らす言論に対して,「女性が他者から性的に見られることや自身を性的に見せることは性的主体化だ」という論駁が,第三フェミニズムの文脈で生じるようになった。そうした論議に未だ答えは出ておらず,私自身も答えを有していない。そして,これからも明瞭な答えは原理的に生じないだろう。しかしそこで,「女性の心身に悪影響が生じている」ということを心理調査(アンケート)によって示すことは(方法論上は)できる。すると,侃侃諤諤の議論は留保したうえで,「現在の社会で際に女性はこのように心的負担を感じている」と述べることが一応はできる。すなわち,性的客体化という概念に対する論議は抱えたまま,ひとまず女性自身が抱いている心理学的要素を俎上に載せ,それに基づいて性的客体化を問題視/是認することはできる。その点で私の研究分野・テーマに社会的意義があると考えられる。