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ほしいろといき
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解放される女たち

私はフェミニズムに出会ってから、自分という人間に向き合えるようになり、社会に向き合えるようになり、そのおかげで自分を様々な社会の抑圧から解放できるようになってきた。でもまだまだプロセスの途中で、多分それは一生途中で、「いや、キツいわ、無理だわ」と思うことも正直毎日ある。それでもまだ自分が戦えているのは、同じように抑圧からの解放のために戦う人が周りにたくさんいるからだと思う。

ドラマや映画の中にも解放のために戦う人たちは存在している。彼女たちは物語の中でがむしゃらに戦い、怒り、悲しみ、笑い転げることで、私たちに寄り添い、連帯してくれる。もう動けない、動く気にもなれないと思っても、彼女たちの活躍を観ていると自然と、またちょっと動いてみよっかな、とすら思えてくる。

ということで今回は、私一推しの解放される女たちを紹介していきたい。

目次

ローラ・ダーン:「ビッグ・リトル・ライズ」(U-NEXT)「マリッジ・ストーリー」(Netflix)

ここに関しては役というより役者の紹介という体で話していきたい。ローラ·ダーンといえば、ジュラシック·パークやデヴィッド·リンチの作品でも活躍し、長い間映画ファンが魅了されてきた人物だ。私はダーンをそこまで知らなかったのだが、「ビッグ·リトル·ライズ」を観て、一気に彼女の虜になってしまった。

「ビッグ・リトル・ライズ」は、リース・ウィザースプーンやニコール・キッドマンなども主役に名を連ねるHBOのドラマ。小学1年生の子供を同じ学級に持つ母親たちの関係性をもとに描かれるミステリー・サスペンスだ。その1人、社長としてキャリアを積み、様々な役員も務めあげるキャリア一筋の女性・レナータを演じるのが、我らがローラ・ダーンである。

私がこのドラマで好きなところは、それぞれ全く異なる性格や思考をもっていて日常的には相容れない部分もある彼女たちが、ある事件を前にした時にそんな建前も取っ払って連帯していく、そんなシスターフッドの描かれ方にある。(※性暴力を扱った作品なので、鑑賞時はお気をつけください。)

レナータは女性が男社会でキャリアを積む難しさ、不公平さに怒りを感じているが、その中で生き抜いているという自分のプライドに固執し、その不条理を内面化することで、なんとか平静を保っている。夫・ゴードンが彼女としては唯一弱音を吐ける相手なのだが、彼が絵に描いたような(だが残念なことに実際よく見かける)ミソジニストで、彼女の悩みをいつも女性であることが原因と決めつけてそれ以上は干渉しようとしない。そんな彼への怒りは、彼女の心にたしかに蓄積されていく。

ダーンはこの様な「男社会を内面化してしまいながらも、怒りの炎を心に秘めている女性」を演じるのがとても上手いように感じる。Netflixのオリジナル映画「マリッジ・ストーリー」でも、主人公の離婚弁護士・ノラをダーンが演じるが、ノラもまた、自分の居場所を守る為に男社会を内面化してしまっている女性だ。

ダーンの手にかかると、そんな女性たちの心の葛藤や怒りが垣間見える。さあこの人物たちはいつどのタイミングで、内面化してしまっているミソジニーを打ち破り、自身を解放し、怒りに声をあげる姿を見せてくれるのだろう、と観ている私たちに期待を抱かせてくれる。

下にあるのは、アメリカで開催された第35回インディペンデント・スピリット・アワードにて、ゲイの聖歌隊が歌いあげる「2019年のクィアだった映画シーンの歌」が最終的に「ローラ・ダーン賛歌」になってしまうという最高なパフォーマンスの動画。正直これを紹介したくてローラ・ダーンを選んだところもあるので、ぜひご覧あれ。

イブ・ポラストリ:「キリング・イブ」(U-NEXT)

「フリー・バッグ」でその名をエンターテイメント界に知らしめたフィービー・ウォーラー=ブリッジが製作を務め、「プロミシング・ヤング・ウーマン」の監督エメラルド・フェネルもシーズン2でヘッド・ライターを務めたドラマ「キリング・イブ」。政治的要人をターゲットにするサイコパスなアサシンのヴィラネルと、女性のアサシンに関して独自に調査を進めるイブ・ポラストリ。強烈に惹かれ合う2人の女性と、彼女たちが巻き込まれる謎や事件を描いた、いわばサスペンス・ラブストーリーである。

今作のファンの間ではヴィラネルがダントツに人気だ。常に華やかな衣装に身を包み、凄まじい身体能力で任務をこなし、目立ちたがりで自信に溢れたヴィラネル。だが、サイコパスであるが故に人の心を理解出来ず、またそれを利用されてきたので、大切に思う相手も傷つけることしかできないという孤独を抱えている。そんな彼女を演じるジョディ・カマーの圧倒的な演技力には多くの人が魅了され、その1人であったリドリー・スコット監督は彼女を映画『最後の決闘裁判』の主役として起用。彼の次回作への出演も決まっている。

ヴィラネルは魅力的で、私も例外なく大ファンである。だが今回は、完全に個人的な意向で、もう1人の今作の主役、イブ・ポラストリに注目していきたい。

「グレイズ・アナトミー」への出演で長年活躍し、Netflixドラマ「ザ・チェア」でも主演を務めるサンドラ・オーが今作で演じるイブは、独自で女性のアサシンについて調査しつつ、MI5にて重役の警備の任務にあたっている女性だ。仕事にも調査にも理解ある夫と、愚痴を言い合える上司や仲間もいる彼女だが、どこかそんな生活に満足しているようには見えない。そんな彼女はヴィラネルとの出会いにより、無意識に閉じ込めていた本来の自分を抑え付けられなくなっていく。

一つの事件をきっかけに独自で行ってきた調査が認められ、夢のような任務を任されるイブ。彼女自身はヴィラネルや他のアサシンを捕まえるために奮闘するが、彼女もまた影の思惑に左右され、利用されてしまい、孤独を味わう。イブとヴィラネルが誰よりもお互いを分かり合えている訳は、この共通点にもあるのだろう。

イブはヴィラネルのことを常に気にかけていて、理解しようとしていて、ヴィラネルのためなら!と今までの彼女ではなし得なかったであろう活躍を見せていく。このドラマははじめ、ヴィラネルがイブをどんどんカオスに巻き込んでいくが、気づけばイブが躊躇するヴィラネルを先導していたり、お互いが手探りながらも2人で乗り越えていこうとする姿に、胸が熱くなる。

今までの生活になかった、彼女が心の奥底で求めていた自由を、ヴィラネルのいるカオスの中でなら手に入れられると知ってしまったイブ。自分の解放を阻もうとするやつらを弾き飛ばすアンストッパブルさはたまに(というより頻繁に)人を傷つけてしまうが、そんなところも含めて愛さずにはいられない彼女の存在からますます目が離せないし、私は今日も励まされている。(そしてイブに追いかけられたい。)

シーズンフィナーレは2022年2月27日より放映開始。現時点では日本公開日は未定だ。

イブとヴィラネルの幸せカップル誕生を待ち望んでいるからね、制作陣のみなさん!

では、新たなドラマが私を呼んでいるので今回はここらへんで。またお会いしましょう。

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このエッセイを書いた人

映像クリエイター/映画『I Am Here -私たちはともに生きている-』撮影・編集

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