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『XX+XY~ジェイの選択~』レビュー

『XX+XY~ジェイの選択~』
原題:XX+XY
ジャンル:韓国ウェブドラマ
配信:日 ABEMA TV/韓 TVing
制作:スタジオドラゴン
キャスト:アン・ヒョンホ、チェ・ウソン、キム・ジイン

目次

作品解説

生まれつき男女両性の特徴を持つインターセックスのチョン・ジェイ。
第二次性徴も始まって、性別について悩み始める。
クラスメイトたちと交流しながら自分の存在を見つめ直す。

レビュー

世界中で大ブームを引き起こした「愛の不時着」。その制作会社スタジオドラゴンが、なんとインターセックスを中核に捉えたドラマを作り上げました。韓国最大手スタジオが企画するにしてはニッチに過ぎる素材な気もしますが、これには理由があります。

同社と関係の深い放送局tvNのストーリーテラー支援プロジェクト「ドラマステージ」の存在があります。公募に当選した新人作家の脚本をもとに独創性あるドラマが作られています。第5シーズンからは「O’PENing」に改題されていて、そのエピソード3~6にあたるのが本作「XX+XY」というわけ。

主人公はインターセックスのうちのひとつ、真性半陰陽(しんせいはんいんよう)という設定です。聞き慣れない用語が2つ出てきたと思うので順に説明してます。

インターセックスとは、国連人権高等弁務官事務所(OHCHR)の定義によると「男性または女性の体の典型的な二元的概念に適合しない」染色体パターンや性的特徴のこと。米国国立健康研究所(NIH)による定義では「先天的な生殖系・性器の異常」のこと。どちらも内外性器、内分泌系、場合によっては性染色体などが通常とされる状態とは異なる場合を指しています。

近年は性分化疾患という用語に置き換えも一部で進んでいます。英語のDisorders of sex development(DSDs)の訳です。他にもVariations in sex characteristics (VSC)という言い方もあります。日本、韓国、米国で、どの用語を使うかの社会的コンセンサスには差異があり、当事者の受け止めも一様ではないです。当事者個人と当事者支援団体の考え方が同じとは限らないのも他のジェンダーイシューと同様です。

団体によって違いもあるのか、米国ポートランドに本拠地を置くインターセックス・イニシアティヴは団体名に堂々とインターセックスと書いています。代表者はフェミニスト団体にも参加してます。JNI SAFEGARDENという日本の団体もインターセックスを使っており、DSDsという言い方は海外では忌避されていると紹介されてます。一方で、ある日本の解説サイトはインターセックスと呼ぶことに反対し、DSDsと呼ぶべきと主張しています。

ドイツでは2018年12月にインターセックスを第三の性とみなす法律が可決。出生届やパスポートにはディバース(多様)と書き込まれるそうです。

インターセックスは包括的な意味であり、その中でさらに多くの分類に分かれます。「染色体が女性はXX、男性はXY」という固定概念に当てはまらない場合などが入ります。Xが1つの女性(ターナー症候群)、子宮のない女性(ロキタンスキー症候群)、XYの女性(アンドロゲン不応症)、XXYの男性(クラインフェルター症候群)…。染色体や子宮だけでは性別を一概に区別できないわけですね。

ドラマに出てくるのは真性半陰陽(しんせいはんいんよう)です。男性の精巣と女性の卵巣とが共存に成功し、性分化が行われ、両性の内部生殖器を持つ症状のこと。インターセックスの中でも特に稀な事例です。英語ではTrue Hermaphroditeといいます。

これも、卵精巣性性分化疾患という用語に置き換えもされており、その場合、英語ではovotesticular syndromeです。

実際のところ、作中ではインターセックスも真性半陰陽も冒頭に一瞬、説明があるだけです。代わりに真性半陰陽の置き換えとして「XXXY」という俗称のようなものが多く使われています。題名にもなっていますよね。これはおそらくドラマ内用語です。作り手が、視聴者に気にして欲しいのは「どのカテゴリに当てはまるのか」といった医学的興味では必ずしも無いからと思われます。あえて現実の用語から離れることで、メッセージ性ある作品として脚色できる余地を残したのでしょう。

韓国日報5月22日付記事によると、脚本家ホン・ソンヨン氏は「(主人公が)アイデンティティを求める話だから、男女のいずれか片方に偏ることなく両側を見てほしい」として、「XXXY」という言い方を採用したそうです。わざわざエピソード冒頭で(男性に診断されることの多い)「クラインフェルター症候群のことではない」と明示しているのはそのためだとか。

また、高校生が日常生活の中で小難しい医学用語を頻繁に使うのは不自然という判断もあったのかもしれませんね。

当エントリではドラマに倣い「XXXY」という用語を使います。

物語は、未婚女性が子を出産するシーンから始まります。母親は生んだ子から目を背けます。この意味するところはわかりません。「XXXY」だったからか、もしくは妊娠自体を望んでいなかった可能性が示唆されています。子はその母親ではなく別の夫婦に引き取られます。

ここでかなり新しめの家族像が描かれています。
生まれた子供──主人公チョン・ジェイは「XXXY」です。
母親のハン・スヨンは、無性愛者(アセクシャル)です。親友のチョン・ヨンオが同性愛者であることを知った上で夫婦になっています。
父親のチョン・ヨンオは、同性愛者です。ゲイです。カミングアウトする気はなく、他の人のように平凡に見られたいようです。

韓ドラでも珍しい家族設定ですよね。
しかもメチャクチャいい人たちなんです(笑)
今どき、こんな人たちいるのか!!と思ってしまいます。
脚本家ホン・ソンヨン氏によると「性的少数者を扱った作品の主な葛藤は両親に隠していたことだが、そろそろ別の話をしなければならない」として、このような設定にしたそうです。

時は流れ、17才になったチョン・ジェイはこう言います。
「生まれながらに選べないものが2つあります。
 ──親と性別」

チョン・ジェイの場合は、生まれた時に親が性別を決めることはなかったので、思春期になった今、自分で女性なのか男性なのかを決めることになりました。どうしようかと悩みながら高校生活を送る、という展開です。

初等教育は代替学校、中等教育はホームスクールだったので、通常の学校に入るのは初めてという設定です。不慣れというか健気なところが、見てる分には面白いです。

一人称は「僕」と名乗ってます。見た目は中性的な男性のような感じ。スラックスを履いて学校に登校します。男子トイレにも行きます。ノンバイナリーに近いようにも見えてきます。それで、女性としての要素もあって…。その辺りはドラマとしてよく出来てます。

「XXXY」という事例で物語が作られているわけですが、「自分だったらどうだろうか」とか「男性らしさ・女性らしさって何なの」とか考えられます。何よりも、どいつもこいつも「性別」でめっちゃ人を判断してくるんですね。見てる側としても「私も性別で人を判断してた…汗」と気付かされるんです。

敵も出てきます。敵は現実世界の反映ですね。
学校の問題やインターネットの問題です。
言うに及ばないほど自明でしょう。

そんな社会のなかで、果たして、チョン・ジェイは自分で女性なのか、男性なのかを、決められるのか。高校生活を無事に過ごせるのか──。

ぜひ見て頂きたいところですが、、

作品のメッセージ性についても触れておきます。
このドラマは「選択」するということの大切さを、あらためて描いています。そこが「XXXY」に限らず、ジェンダー全般やLGBTQ、ノンバイナリーなど、より幅広い層への共感を誘います。

私たちは、性別が生まれながらに規定されています。女性も男性も「選択」したわけではないけど、それに従っています。社会的慣習も付随してきます。性別によって、髪型/髪色/化粧/服装/靴/色/言葉遣い/職業/地位/セクシャリティ/等々が分けられることも多々あります。

「XXXY」のチョン・ジェイは「自分で決めたい」けど、周りの人たちは「もう決まってる」という対比になります。自分のアイデンティティはどこにあるのかっていう葛藤ですね…。ここが見どころなわけです。

ドラマの公式サイト(TVingの作品解説)を見ると制作側の問題意識も垣間見れます。「インターセックスの人は出生時に男女二元論の世界に適応できるよう医療処置が”強要”される」と解説されているんです。多くの該当する子供は自分で決められないんですね。

実際、ある団体は出生時に”不必要なのに”医療処置で「治す」ケースがあるとして、それだとアイデンティティの喪失に繋がるからと明確に反対しています。

一般的に知られるような障碍であれば治せるなら治した方がいいと合意しやすいでしょうが、インターセックスにその発想をどこまで転用できるかは極めてセンシティブな問題です。元々、包括的概念ですし一概には言えないのが実情です。

そういうこともあるので、チョン・ジェイの場合は、出生時ではなく高校生になってから自分で決める、という設定にすることで、「選択」という側面の重要性を描いたのでしょう。

このドラマは4話構成という短いエピソードのなかに、そんなことまで考えさせられる、結構、大事な論点が入ってます。それでいて娯楽作品として面白いというのがいいですね。唯一の欠点は短いということ(涙)。ぜひ続編を作ってほしいです。

間違いなく意欲作! 見逃さないで欲しいと思います!

スコア 5/5
(大傑作。絶対オススメできる。)

表現上の特性:
問題なく見れる。直接の性描写は一切ない。暴力表現もない。「ちょっと敏感でも大丈夫」よりもさらに万人向け。

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このエッセイを書いた人

好きなアーティストは、움직여라 ! ! 프페랜드、Tachyon Z、NEKIRU、QWER、VCHA、UNIS、Melanie Martinez、チェゴチャンネル

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