『ちょっと敏感でも大丈夫』
原題:좀 예민해도 괜찮아
ジャンル:フェミニズムドラマ
配信:日 Hulu/韓 ONSTYLE
制作:スタジオオンスタイル
キャスト:キム・ダイェ、キム・ヨンデ、イ・ユミ、ホン・ソヨン
作品解説
フェミニスト女性が主人公の韓国ウェブドラマ。
ジェンダーやフェミニズムに関わる問題に悩みつつも乗り越えようとする姿を描く。
「イカゲーム」のジヨン役イ・ユミ、「わかっていても」のユ・セフン役キム・ムジュンが出演している。
レビュー
今やフェミ色のあるドラマといっても珍しくはない。だが、ここまでストレートに、直球で描いているドラマはそれほど多くはないだろう。何しろフェミ素材を背景に置いて伝えるわけでもない。全てのエピソードで真正面から攻めているから。韓国にはこのような内容を制作し公開できる環境があるということ。その心意気にも驚く。日本ではありえないかな、と。
タイトルの付け方からして上手い。『ちょっと敏感でも大丈夫』とはジェンダー不平等に敏感に反応しても大丈夫だよって意味。鈍感な男性に「すぐ反応するなよ」と言われてしまう昨今をよく表している。
シーズンごとに主人公が大学生、インターン生、社会人と変わっていく。もしこれを読んでいるあなたが近い世代なら尚更、感情移入しやすいかも、上の世代なら自分の過去と照らし合わせることにもなる。
全体の雰囲気は重苦しさより若干、コメディに寄っていて、深い洞察をさせるというよりカジュアルにメッセージを伝える。見やすいのは助かる。
シーズン1は短い「女性あるある」を連続させたような構成だ。それぞれの問題を具体的に伝える形で描いている。登場人物の会話や被害の様子はまさに日々起きているその風景と重なる。社会ってこうなってるよね、ってことを包み隠さない。
1話は飲み会の席、2話は体や顔の評価、3話はクラブで起きること、4話はコンビニに来る変な男性客…。というふうに、それ以降も、プライベート動画の流出、メイクを強要する規範など、日頃、見聞きする問題をバラエティ豊富に揃えてるといった変だがとにかく揃えている。いずれも日本でも聞くことばかり。
脚本は女性作家が担当している。演出は男性が担当しているらしいがその分、「男性視点」の気持ち悪い行動の再現には成功していると言える。フェミ作品の中には時々「迂遠な表現を過度に意識するあまり、気持ち悪い男性もわりと綺麗に撮してしまう」こともあるので、これもいいかなと思う。
精細な関係性の表現については一部、雑さもある。男性に優しいロマンス展開が必要かは好みの分かれるところ。普段からロマンスドラマに接してるならそれほど違和感はないだろうが、人によってはもっと話は深刻なのにという感想を抱く可能性はありそう。お堅い性教育ドラマではなくエンタメドラマなので予定調和も理解できなくはないが。
それも含め、広範な視聴層の支持を得るための配慮もなされていると感じる。幅広く性差別を取り上げてるわりには、なぜか同性愛者の要素は一切言及がない。焦点を「女性差別」に集中させることで議論が錯綜するのを回避したようだ。これは残念に思う部分であるが、社会的環境を考慮したのかも。
本作は若年層が気軽に見ることを想定されている「ウェブドラマ」という形態をとっていた。視聴ハードルの低いYoutubeなどでも公開されていた。多くの人に見られた分、多くの批判コメントも殺到していた。何でもできる状況ではないのは確かだ。
シーズン2に入ると「女性あるある」を継承しつつも、視聴者からのフィードバックもあったのか、少々テンプレっぽかったストーリーに多少の改善が見られる。雰囲気は少しシリアスになった。仕事中の生理についてや、盗撮問題やディープフェイク、上司から変な連絡が来たりとか。より深いところまで描いている。ただ、一部シーンでは男性の力を借りて問題を解決するパターンがあるのはちょっと残念ではある。
シーズン3に相当する『ちょっと敏感でも大丈夫 2020』では、より没入感の高いストーリーテリング重視のフォーマットになった。ナラティヴな構成で見入ることができ、共感性も高くなっている。さらにシリアスに、現実的になった。作品としても普通に面白くなっている。
学校やサークルなどで、教材として使ってもいいと思う、そんなドラマです。
スコア 4/5
(傑作。オススメできる。ジェンダー平等やフェミ的要素が一定度ある)
表現上の特性:
問題なく見れる。映像自体は高いレベルで配慮されており、雰囲気もカジュアルなので気にかかる点はないが、その扱う題材ゆえに連想する人は若干の構えは必要。セクハラ発言は頻出する。性用語はS1で下ネタ的使い方で結構ある、S2以降でそれは激減。セクハラ接触は迂遠表現だが、痴漢シーンは気持ち悪い(S1EP3)、女性宅に入ろうとする男は少し怖い(S1EP10)、肌の露出はない。暴力表現無し。